教員紹介
国際園芸農学科 食農経済コース
柳 京煕 准教授
YOU Gyunghee
専門分野:
国際農業・食料経済学
- キーワード:
- 国際貿易
- マーケティング
- 農協
- 農産物市場
- 農産物需給
研究内容
私は現在、農産物や畜産物を含む食料の生産・流通構造の変化を踏まえながら、国際的な食料の流通構造、そしてそれが各国の食料自給体制や国内経済に及ぼす影響について、複合的かつ多角的に研究を進めています。具体的には、世界的な食料供給ネットワークの再編、グローバルバリューチェーンにおける農産物の位置づけ、多国籍企業の影響力の拡大など、国境を越えた食料の流れがいかに形成され、また各国の農業政策や消費者行動にどう波及しているのかを追跡・分析しています。
そのうえで、輸入自由化や貿易自由化に伴う影響を明らかにするために、食料の生産・流通・加工・消費といったサプライチェーン全体を研究対象としています。特に、自由貿易体制の下での国内農業の位置づけや競争力、価格形成メカニズム、地産地消の持続可能性、流通インフラの変化、食品加工業の集中化と分業化、そして消費者ニーズの多様化に対応した産業構造の変化などを総合的に考察しています。これらの研究は、農業政策や食料安全保障を再検討するための基礎的資料としても位置づけられます。
また、この研究の前提として、農業経済および世界経済の構造的変動についても重点的かつ基礎的な研究を行っています。とりわけ、リーマン・ショック以降の世界的経済危機、COVID-19パンデミックによるサプライチェーンの混乱、地政学的緊張の高まり、気候変動の影響など、グローバル経済の不安定性が農業と食料流通に与える影響を重視しています。これにより、経済のグローバル化が食料供給体制に与えるリスクと脆弱性、またそれに対する各国の政策対応の特徴を明らかにすることを目的としています。
加えて、農産物の流通および加工において重要な役割を担う農業協同組合(農協)についても、重要な研究対象としています。農協が果たす役割は、単なる流通や金融にとどまらず、農業経営の支援や地域コミュニティの維持、さらには政策提言にまで及びます。日本国内の農協の制度的変遷や現在の課題、またその経済的・社会的意義について検討するとともに、農協がグローバル経済の中でどのような機能変化を迫られているのかにも注目しています。こうした農協の機能を国際的な視点から捉え直すために、北東アジア(日本・韓国・中国など)における農協の比較研究を進めています。各国の農協制度の歴史的背景、政策的支援体制、流通および加工機能の違い、またそれらが地域農業とどう結びついているかについての実証的な研究を通じて、農協の役割の多様性と共通性を明らかにしようとしています。さらに、この比較研究を基にして、将来的な北東アジア地域における農協間の連携や共同プロジェクトの可能性も模索しています。
また、FTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)などの国際貿易条約についても、詳細な分析を行っています。これらの協定が国内農業や食料流通構造に与える影響、特に関税撤廃・非関税障壁の緩和が農業経営や価格政策に及ぼす帰結を明らかにしようとしています。同時に、こうした国際ルールが農業分野における国家主権の再編や、地域的な経済ブロック形成に与える意味合いについても注視しています。加えて、新自由主義経済体制についても、その経済的・歴史的性格を問い直す研究を進めています。特に、農業や農村社会において新自由主義がもたらした影響、すなわち市場原理の優先と公共的支援の縮小、農業経営の効率化と同時に生じた格差拡大、農業者の組織弱体化といった現象について、批判的に検討しています。このような制度的・思想的背景のもと、農業・食料分野におけるオルタナティブな経済システムの可能性も探求しています。
最後に、北東アジアにおける農業分野での協力と連携のあり方についても強い関心を持っており、域内の農業政策の比較と共有、共同研究体制の構築、越境的な食料安全保障ネットワークの形成といった具体的な協力方策について考察しています。その延長線上で、農業分野における新たな国際貿易ルールの枠組みの構築についても、制度設計と理念の両面から研究を展開しています。