教員紹介
生物学科 生態環境コース
石田 清 教授
ISHIDA Kiyoshi
専門分野:
森林生態学
- キーワード:
- 季節適応
- 適応進化
- 表現型可塑性
- 晩霜
- 積雪
- 気候温暖化
研究内容
温帯性樹種の季節適応とその多様性を生態学的な視点から研究しています。このほか、樹木の交配・繁殖や絶滅危惧種の保全に関わる生態学的研究も行っています。主要な研究テーマは以下のとおりです。
樹木の季節適応に及ぼす春の降霜と積雪の影響
開葉日や幹・根の成長開始日、落葉日などの生物季節現象の時期は、温帯性樹種の季節適応や生産性、生物間相互作用を規定しています。温帯性樹木の開葉日とその表現型可塑性(気温の変動による変化や冷温と日長によるその制御)についてみると、その進化を駆動する自然選択には、晩霜害と競争(競争力を規定する光合成生産)が関与していると考えられています。また、春の積雪は冷却や埋雪などを介して上層木と幼樹それぞれの季節性に影響します。こうしたことから、晩霜や積雪に対する樹木集団の季節適応の傾向を解明することは、季節適応の多様性とその進化要因の理解に貢献します。このような視点から、北日本の多雪山地に分布するブナやミズナラなどの落葉広葉樹を対象に、葉や木部成長の季節性とその表現型可塑性に着目して、降霜日や消雪日の地形間・標高間変異に対して各生育地の集団がどのように局所適応し、遺伝的に分化しているのかを明らかにするための研究を行っています(写真1, 2, 3)。
気候温暖化が樹木の季節性に及ぼす影響
近年の気候温暖化は温帯以北の樹木集団を衰退させる可能性があります。大部分の樹種の移動速度は等温線の北上速度よりも遅く、山岳地についても上方へ移動できる高度は限られています。このため、樹木集団の運命は、表現型可塑性と進化によって温暖化した気候条件に適応できるかどうかで決まります。一般に、樹木集団は遺伝的多様性が高く、遺伝子流動の距離も長いことから、こうした気候条件の変動に対して迅速に適応進化できる可能性があります。一方、近年の気候温暖化によって温帯性樹木は開葉時期を早めており、これにともなってヨーロッパやアジアで晩霜害のリスクが増加しています。また、温暖化で消雪時期が早まると稚樹の晩霜害も増加するかもしれません。このような樹木の季節性と気候のミスマッチは、晩霜害を介した自然選択によって次世代が進化すれば解消されます。以上の視点から、気候温暖化による樹木集団の季節性の変化や適応能力を解明するため、ブナやミズナラなどを対象に、気候温暖化を模した標高別植栽実験や除雪実験を行っています(写真4, 5)。