教員紹介
生物学科 基礎生物学コース
小林 一也 教授
KOBAYASHI Kazuya
専門分野:
発生・生殖生物学
- キーワード:
- プラナリア
- 生殖様式
- 生殖細胞
- 分化多能性幹細胞
研究内容
プラナリアにおける生殖様式転換機構
有性生殖と無性生殖にはそれぞれメリットとデメリットがあります。そして、多くの動物が無性生殖と有性生殖とを転換することができます。つまり、この生殖様式転換現象は、2つの生殖様式の「いいところ取り」をした生殖戦略ともいえます。しかし、その転換のメカニズムはほとんど明らかとなっていません。
ある種の扁形動物プラナリアは水温の変化が重要な要因となって季節的に生殖様式を転換します。無性状態から有性状態への転換は特に「有性化現象」とよばれ、プラナリアの分化多能性幹細胞から生殖器官が分化してくることから、生殖生物学的だけでなく発生生物学的にも興味深い現象といえます。50年程前に、無性個体に有性個体を餌として与えることによって有性化が引き起こせることが報告されました。この研究によって、無性個体に生殖器官を誘導する有性個体中の化合物「有性化因子」の存在が示唆されました。有性化因子が明らかとなれば、有性化機構を解明する手がかりになると考えられますが、その実体はまだ完全に明らかになっていません。当研究室では、リュウキュウナミウズムシ無性クローン集団であるOH株(図1)に有性個体をエサとして与えることによる有性化の実験系(有性化系)が確立されていて、有性化因子の単離や有性化機構の解明をめざす研究を行なっています。
有性化の過程には6つのステージがあります。ステージ3以降は有性化因子の外部投与なしでも有性化が進行する一方で、ステージ2までは有性化因子の外部投与をやめると無性状態に戻ってしまうことから、ステージ2と3の間にある特異点を「有性化回避不能点」と名付けました(図2)。この実験的有性化は有性化因子とその促進因子として働く卵巣誘導物質の相加/相乗効果によって引き起こされていることがわかりました。これまでに卵巣誘導物質としてトリプトファンやセロトニンを同定していますが、有性化回避不能点を越えるために必要な有性化因子を未だ同定できていません。近年、有性化因子は卵黄腺細胞を大量に含んでいる卵カプセルに貯蔵されていることがわかりました。卵黄腺は一部の扁形動物にだけ見られる生殖器官です。この発見が大きな動機となり、プラナリアと系統関係が遠縁ではあるものの、同じように卵黄腺を持つ寄生性扁形動物にも注目しています。