教員紹介

分子生命科学科 生命科学コース

栗田 大輔 准教授

KURITA Daisuke

専門分野:
生化学・分子遺伝学

  • キーワード:
  • リボソーム
  • 翻訳
  • タンパク合成
  • RNA
  • タンパク質

研究内容

メッセージ

「スピード」と「正確性」、あるいは「量」と「質」。両者には負の相関関係(トレードオフ)があって、同時に満たすことは困難です。この葛藤は、日常生活に限った話ではなく、分子の世界でも見られます。DNAやRNA、タンパク質といった生体高分子を「素早く」作ろうと思えば、どうしても「間違い」が増えてしまいます。一方、正確に作ろうとすればスピードを犠牲にするだけでなく、時には一見無駄とも思えるエネルギーを消費しなくてはいけません。生物は長いサバイバルゲームの中で生き残ってきたシステムを持っています。熾烈な競争の中で生き残ってきたシステムはとても巧妙にできています。タンパク質を作る過程では、正確に作るための仕掛けが何重にも用意されています。それでも失敗してしまったときのために非常用システムまで存在します。そうかと思えば、意図的に間違えることではじめて機能するタンパク質を作る例も分かってきました。研究は世界中の研究者との競争です。新しい発見をすると夜も眠れなくなることがあります。研究には運も必要ですが、何より「人」が重要です。何かに夢中になる、時間を忘れて没頭する、という経験は大きな力になります。複雑な生命の仕組みを自分の手で解明したい、地方の大学から世界をあっと言わせるような研究に取り組みたい、あるいは将来の教科書を書き換える研究に挑戦したい方の参入を歓迎します。

研究テーマ

分子生物学のセントラルドグマの最終段階、すなわちタンパク質を合成する反応は「リボソーム」と呼ばれるRNAとタンパク質から成る巨大な複合体の上で起きています。リボソームは、mRNAの情報をtRNAで読み取ることでアミノ酸を正しい順番で連結させてタンパク質を合成します。教科書では、タンパク合成はmRNAの開始コドンから始まり、終止コドンで終わるとされています。しかし、実際の細胞内ではリボソームが終止コドンに到達することができずにmRNAの途中で停滞してしまうという問題がしばしば起こります。これまでの研究から、大腸菌ではこのような問題に対処する救急車のような分子を2種類用意していることがわかってきました。1つはtmRNA(1つの分子がtRNAとmRNAの両方の機能を持っています)、もう1つはArfAという小さなタンパク質が関わっています。どうやってこれらの分子は非常事態のリボソームを認識して解決するのか、その仕組みを分子レベルで明らかにすることを目指して研究を進めています。最近の研究から、救急車は2種類だけではないことも明らかになりつつあり、“リボソームのレスキュー”はこれまで考えられていたものより遥かに複雑であることがわかってきました。我々の研究室では、個々のシステムの分子メカニズムを解明するとともに、各システムの生理的役割を明らかにするために研究を行っています。

また、リボソームは多くの薬(抗生物質)の標的になっています。タンパク合成の仕組みが明らかになると、薬の作用機序や薬剤耐性メカニズムを分子レベルで理解できるだけでなく、新しい薬剤を作る基盤になります。治療薬のない感染症の流行が世界に与える影響は計り知れません。我々の研究室では、次世代の薬剤を開発するための分子基盤を確立するための研究を行っています。

2023年2月21日 更新
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