教員紹介

生物学科 基礎生物学コース

西野 敦雄 教授

NISHINO Atsuo

専門分野:
動物生理・分子進化学

  • キーワード:
  • 筋肉
  • 神経
  • ホヤ
  • 進化
  • イオンチャネル
  • 運動制御

研究内容

海産無脊椎動物の生理機能や機能形態の発生に関わる制御機構の解明および関連する分子進化研究。特に、尾索動物のプランクトン環境における運動機能の適応進化に関する分子基盤の解明を目指す。

ホヤ、オタマボヤ、ウミタルなどを含む尾索動物は、近年、我々ヒトを含む系統である脊椎動物に最も近縁な系統を構成することがほぼ確定された動物群である(図1)。これらの動物群の生活史進化の解明は、脊椎動物の起源と進化を理解する上で本質的な意味合いを持つ。

ホヤは幼生期に脊椎動物と多くの派生形質を共有したオタマジャクシ型の形態を示す。ホヤのオタマジャクシ幼生は、一時期の浮遊期間を経て着底し、変態して、固着性の成体となる。ウミタルも、オタマジャクシ形の幼生期を経た後、浮遊性の成体となる。それに対してオタマボヤは、一生の間、オタマジャクシ形態を保持したまま浮遊生活を送る(図2)。このような多様な生活史はどのように生まれたのだろうか。祖先型はどのようなものだっただろうか。尾索動物は脊椎動物の姉妹群を構成するがゆえに、そこで明らかにされる祖先の姿は脊椎動物の起源に重なる。

尾索動物オタマジャクシは、単純な細胞構成を大きな特徴とする。100個程度の神経細胞で外界の感覚刺激を受容、処理し、高々数十個の筋肉細胞を駆動して遊泳運動を行う。そのような単純さにもかかわらず、敏英な感覚応答と、洗練された運動機能を備えている。ただし、興味深いことに、成体期は固着性であるホヤ、成体期が浮遊性であるウミタル、そして一生をオタマジャクシ形で過ごすオタマボヤ、それぞれのオタマジャクシ形態の示す運動能力は顕著に異なり、それぞれの生活史形態に適応している(生命誌研究館「生命誌ジャーナル」69号参照→http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/69/research_2.html)。

これらオタマジャクシは単純な細胞構成を備え、ホヤとオタマボヤではゲノム情報も蓄積しており、遺伝子機能を解析する手法も整備されてきている。実際、遺伝的プログラムを人為操作することで、特定の細胞の発生運命や生理機能を変更する実験を行うことができる。

以上を考え、尾索動物のオタマジャクシ形態が示す、運動機能の系統特異的な適応現象に注目し、その分子生理学的な基盤を解明することを目標とする。

図1:後口動物の系統関係。

図1:後口動物の系統関係。

図2:尾索動物に属するホヤ、ウミタル、オタマボヤの生活史。ホヤは有性生殖のみを行う種(i)と無性生殖も行う種(ii)がある。

図2:尾索動物に属するホヤ、ウミタル、オタマボヤの生活史。ホヤは有性生殖のみを行う種(i)と無性生殖も行う種(ii)がある。

1.カタユウレイボヤ/ユウレイボヤ幼生の遊泳運動制御の神経・筋肉生理学

カタユウレイボヤとユウレイボヤは既にゲノム情報が公開され、さまざまな研究手法が確立している有用な研究材料である。これらの幼生は脊椎動物とボディプランを共有しながら、極めて少数の細胞で体が構成されている。例えば、筋肉細胞は片側に18個程度で、運動ニューロンも3~5対しかないと考えられている(図3)。それでいて、ホヤ幼生はサカナのように尾部に屈曲を左右交互に生じ、それを前から後ろに伝播することで推進し、また、屈曲の強度を調節する機構も備えている(図4)。この単純な神経、筋肉の細胞構成で、なぜこのように上手に泳ぐことができるのか? 当研究室はこの問題に、特に、神経細胞のコミュニケーションを媒介し、筋肉の活動の性質を決定する役割も果たすイオン輸送膜タンパク質=“イオンチャネル”に注目して研究を進めている。

図3:カタユウレイボヤ幼生の体。上は筋肉細胞の境界をトレースしたもの。赤丸は核の位置を示す。下は一部の神経細胞にGFPを発現させたもの。中枢神経系の概要を示す。(注意:体外で粒々に光っているものはテスト細胞の自家蛍光でGFPの蛍光ではありません。)

図3:カタユウレイボヤ幼生の体。上は筋肉細胞の境界をトレースしたもの。赤丸は核の位置を示す。下は一部の神経細胞にGFPを発現させたもの。中枢神経系の概要を示す。(注意:体外で粒々に光っているものはテスト細胞の自家蛍光でGFPの蛍光ではありません。)

図4:カタユウレイボヤ幼生の遊泳運動。高速度カメラで撮影し、4.2ミリ秒ごとに体の中心線をトレースした結果を示している。最初と最後のコマだけ、幼生も表示している。

図4:カタユウレイボヤ幼生の遊泳運動。高速度カメラで撮影し、4.2ミリ秒ごとに体の中心線をトレースした結果を示している。最初と最後のコマだけ、幼生も表示している。

2.尾索動物オタマジャクシの比較研究

1.の研究を柱に、さらにさまざまなホヤの幼生を用いた運動能力に関する比較生理学研究、オタマボヤとウミタルに関する基礎生物学的(形態、生理、発生)研究に取り組む。1.の研究の進展にあわせて、遊泳運動の分子レベルでの比較研究に発展させていく。

その他にも、当研究室が興味をもっている現象はたくさんある。長期的な視座に立って、徐々にノウハウを蓄積し、成否の可能性を見極めながら進めていく。また研究室のメンバーにも、新たな研究テーマの設定を奨励する。(ただし、西野への研究計画書の提出を求めます。)

2023年2月21日 更新
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