一昨年(2017年)につがる市から発見された「ガシャモク(ヒルムシロ科)」が生育する池に,ガシャモク以外にも様々な水生植物が生育しており,その多様性と希少性が全国屈指であることがわかりました。この結果は,発見されたガシャモクだけでなく,この池そのものが,国内における水生植物の保全上重要であることを示すものです。新潟大学教育学部の首藤光太郎研究員(2019年3月まで在籍,現北海道大学・助教)および志賀隆准教授,弘前大学農学生命科学部附属白神自然環境研究センターの山岸洋貴助教らに加え,市民グループである津軽植物の会や青森自然環境研究会などの多くの組織や研究者が参加した研究グループによる共同調査によって明らかになりました。論文は,Journal of Asia-Pacific Biodiversity誌に2019年2月23日(日本時間)にオンライン公開されました。
Shutoh K, Yamanouchi T, Kato S, Yamagishi H, Ueno Y, Hiramatsu S, Nishihiro J, Shiga T. The aquatic macrophyte flora of a small pond revealing high species richness in the Aomori Prefecture, Japan. Journal of Asia-Pacific Biodiversity (in press). doi: 10.1016/j.japb.2019.02.006
調査の背景
一昨年(2017年),希少水生植物ガシャモク(Potamogeton lucens :ヒルムシロ科ヒルムシロ属)の新たな産地が,青森県つがる市のある池から発見されました。国内2ヶ所目の現存自然集団で,これまで知られていた同種の国内の北限を500 km以上更新することとなりました。
この池には,一見してガシャモクの他にも多様な水生植物の生育が確認できました。また,池内にどのような水生植物が生えているかを明らかにすることは,ガシャモクを保全していく上で重要です。そこで,2017年から2018年にかけて,池内で水生植物相の調査(池内に生育する水生植物種をリストアップすること)を行いました。
成果
調査の結果,この池にはガシャモクのほかにミズオオバコやイトイバラモなどの15種のレッドリスト掲載種(環境省または青森県)を含む,合計57種類にもおよぶ水生植物が生育していることが明らかになりました。日本の湖沼に生育する水生植物データベースを用いて現存種数と希少性(環境省レッドリストに掲載された種をランクに基づいて傾斜配点したもの)を評価したところ,2001年以降に調査が行われた66湖沼の中で,現存種数および希少性はともに4位となりました(※2001年以降に水生植物相調査が行われた湖沼がわずかであるため,実際の種多様性および希少性を示す順位とは限りません)。この結果は,ガシャモクの生育する池が,日本国内における水生植物の保全上,重要な池であることを示唆します。上位の湖沼のほとんどが大型の水域である一方で,調査した池の面積がわずか0.14 km2ほどであることを考慮すると,驚くべき多様性であると言えます。
この池がなぜこのような多様性と希少性を示すことになったかは,現時点では明らかになっていません。現在もつがる市の多くの水辺に多様な水生植物が生育していることや,人為的な撹乱を受けて池が誕生した結果,多様な環境を内包するようになったことなどが関係した可能性があります。また,この池は誕生から比較的歴史が浅く,今後環境が変化していく可能性もあります。継続的な調査によって,経過を見守り,原因を探っていく必要があります。