弘前大学 農学生命科学部附属 白神自然環境研究センター 白神山地で学び世界を見つめる

センターの専任教員が北日本の昆虫に関する論文を出版しました!

センターの専任教員(相馬助教)が北日本の湿地に生息する昆虫に関する論文を出版しました!

書誌情報と解説を以下に示しました!

 

Souma, J. & Yamamoto, A. (2025) Taxonomic study of the subgenus Limnonabis of the genus Nabis (Hemiptera: Heteroptera: Nabidae: Nabinae: Nabini) from Japan, with description of N. (L.) marihygrophilus sp. nov. inhabiting estuarine wetlands in northern Japan. Journal of Insect Biodiversity, 69 (1), 21–38. https://doi.org/10.12976/jib/2025.69.1.2

ナガマキバサシガメ亜属Limnonabis Kerzhner, 1968(カメムシ目:マキバサシガメ科:マキバサシガメ属Nabis Latreille, 1802)は全北区から6種が記録されています。日本に分布する3種(ハイイロナガマキバサシガメN. (L.) demissus (Kerzhner, 1968)、タイワンナガマキバサシガメN. (L.) sauteri (Poppius, 1915)、オオナガマキバサシガメN. (L.) ussuriensis (Kerzhner, 1962))は湿地でのみ得られ、それぞれ異なる草丈の単子葉草本群落にのみ生息します。本亜属は北日本から1未同定種が知られるものの、分類学的研究が長らく停滞していました。本研究では、この未同定種を新種シオナガマキバサシガメ N. (L.) marihygrophilus Souma & Yamamoto, 2025として記載しました。シオナガマキバサシガメは宮城県に位置する北上川の河口付近の湿地で20世紀末に採集されています。しかし、東日本大震災の津波が植生に被害を与えた後の2020年代に得られていません。よって、宮城県では姿を消した可能性があります。他方で、北海道に位置する勇払川の河口付近の湿地で2020年代に生息が確認されました。本亜属の採集には真夏の湿地で単子葉類をスイーピングする必要があり、熱中症の危険があります。高湿度かつ日陰がない場所で鋼鉄枠の網を全力で振り続けると、瞬く間に体力を消耗します。北海道では適度に休憩を挟めば夕方まで活動できましたが、宮城県では1時間が限度でした。活動しやすい季節に発生しないことを恨むばかりです…。

ハイイロナガマキバサシガメNabis (Limnonabis) demissus (Kerzhner, 1968)

シオナガマキバサシガメ Nabis (Limnonabis) marihygrophilus Souma & Yamamoto, 2025

タイワンナガマキバサシガメ Nabis (Limnonabis) sauteri (Poppius, 1915)

オオナガマキバサシガメ Nabis (Limnonabis) ussuriensis (Kerzhner, 1962)

 

本論文については弘前大学HPにプレスリリースが掲載されています。

PDF形式はこちらになります。

 

北日本で実施したフィールドワークの成果は今後も公表予定です!

既に投稿済みの原稿もあるので、出版が楽しみです!

センターの専任教員が世界自然遺産の昆虫に関する論文を出版しました!

センターの専任教員(相馬助教)が世界自然遺産の小笠原諸島に固有の昆虫に関する論文を出版しました!

書誌情報と解説を以下に示しました!

オープンアクセスなので、リンク先から誰でも閲覧できます!

 

Souma, J. (2025) An illustrated key to the lace bugs (Hemiptera, Heteroptera, Tingidae) from “Oriental Galapagos” (the Ogasawara Islands, Japan), with descriptions of three new species of the endemic genus Omoplax Horváth, 1912. Zookeys, 1250, 243–284. https://doi.org/10.3897/zookeys.1250.160064

小笠原諸島のグンバイムシ科(カメムシ目)には、2固有属(ムニングンバイ属Acanthomoplax Souma & Kamitani, 2021とオガサワラグンバイ属Omoplax Horváth, 1912)に含まれる5種(ムニングンバイA. tomokunii Souma & Kamitani, 2021、オガサワラグンバイO. desecta (Horváth, 1912)、カルベグンバイO. karubei Souma, 2022、チチジマグンバイO. majorcarinae Guilbert, 2001、ムコジマグンバイO. mukojimensis Souma, 2022)が知られていました。本研究では、同諸島での徹底的なフィールドワークで発見された3新種(ハハジマグンバイO. hisasuei Souma, 2025、イヌグスグンバイO. inugusu Souma, 2025、コブガシグンバイO. kobugashi Souma, 2025)を記載しました。結果として、同諸島から8固有種の本科が確認されました。さらに、ムコジマグンバイをのぞく7種寄主植物を特定しました。形態的特徴が近似する複数種では、寄主植物が同種または近縁種の樹木で、異所的分布が判明しました。シマシャリンバイに寄生する2種では分布域が植物の空間的遺伝構造と一致しました。キンショクダモを寄主植物とする2種でも同様の状況でした。同諸島の本科は海洋島の固有昆虫を材料とした種分化研究に格好の材料と考えられます。他方で、多くの外来生物が同諸島の固有生物の脅威となっています。今後の保全研究に資するため、本科への影響が懸念される外来生物と各種の生息状況について議論しました。同諸島に分布する本科は有人島で採集が困難または不可能な種が存在します。避けて通れなかった無人島でのフィールドワークは貴重な経験となりました。実質的な崖登りに耐え抜いて同諸島の最稀種であるムニングンバイに巡り会えた際の興奮は記憶に刻まれています。傭船で波に揺られて外洋を渡ったのもスリリングな思い出です。まだ見ぬ無人島を目指しつつ、新知見を狙う研究ライフを継続する所存です。いつか驚くべきカメムシに出会えると信じて…。

ハハジマグンバイOmoplax hisasuei Souma, 2025

イヌグスグンバイOmoplax inugusu Souma, 2025

コブガシグンバイOmoplax kobugashi Souma, 2025

 

本論文については弘前大学HPにプレスリリースが掲載されています。

PDF形式はこちらになります。

 

日本昆虫学会でのシンポジウムと小集会を2週間後に控えた最高のタイミングで論文が公表されました!

青森在住を活かしたあのカメムシの原稿が受理されたので、近いうちに研究成果を再びお知らせします!

【宣伝】日本昆虫学会第85回大会 公開シンポジウム「小笠原昆虫研究への招待」

専任教員の相馬が日本昆虫学会第85回大会で公開シンポジウム「小笠原昆虫研究への招待」に登壇します。

大会プログラム

開催時刻は9:30~12:00で、Zoomで配信を視聴することもできます。

本シンポジウムは小笠原諸島での研究に昆虫学者の参画を促すため立ち上げられました。

招待演者として小笠原諸島の固有カメムシについて発表します。

現在進行中の研究プロジェクトや先日出版された固有グンバイムシ8種の論文についてお話しします。

シンポジウムポスター

興味のある方はお聴きいただければ幸いです。

オープンキャンパスに参加しました

本日は弘前大学のオープンキャンパスが開催されました。

昨年に引き続き今年も模擬講義を実施しました。

【宣伝】日本昆虫学会第85回大会 小集会「小笠原マイナー昆虫若手の会」

専任教員の相馬が日本昆虫学会第85回大会で小集会「小笠原マイナー昆虫若手の会」を主催します。

大会プログラム

開催時刻は17:00~19:00で、Zoomで配信を視聴することもできます。

本会はマイナー昆虫を専門とする若手を世界自然遺産の小笠原諸島での研究へ新規参入させるため立ち上げました。

招待演者は島に住む側、島に通う側、島の外にいる側から計3人にお越しいただきます。

それぞれの立場から小笠原諸島で取り組む研究の魅力および調査対象の現状についてご紹介いただきます。

小集会ポスター

興味のある方はお聴きいただければ幸いです。

【参加者募集】深浦町 ”アオーネ白神十二湖” にて生物相調査BioBlitzを行います。

BioBlitz は国内では馴染みの少ないものと思いますが、欧米を中心に博物館などが主催で行われている市民参加型の生物調査イベントです。
動植物の専門家と子供を含む市民が一緒に、決められた地域の動植物を24 時間かけて調査します。調査結果は報告書にまとめられ、出版されます。このイベントの狙いは、
 ・地域の自然と奥深い生物の種多様性を知る。
 ・動植物の研究者と接し、専門的な知識や技法を知る。
 ・市民が記録の残る調査活動に参加する。
 ・単純に、自然に触れ、生き物を知る事を楽しむ。

一般的な観察会や散策とはちょっと違う自然との新しい接し方を楽しみましょう。

会場:青森県深浦町 アオーネ白神十二湖
 当日は現地集合。自家用車でお越しください。

日時:2025 年9月27日午前10:00 〜 
 9月28日午前11:30(24 時間調査)

募集:小学生以上  50名
  (調査経験不問。小中学生は保護者と一緒に参加してください)

応募締め切り7月31日 参加者発表8月5日
  (応募者が多数と見込まれるため,抽選を行います)

専門家スタッフ
  弘前大学教員、外部研究者のほか、津軽植物の会、津軽昆虫同好会、白神キノコの会、弘前大学フィールドサイエンス研究会、日本野鳥の会弘前支部、コウモリの保護を考える会などに参加を打診中。

参加を希望される方は、下記URL から「一般参加申し込みフォーム」に入り、必要事項にお答えください。

https://forms.gle/fhVyxBYuhKbebVyU7

詳細はこちらのPDFをご覧ください。

Bioblitz2025案内配布用

白神自然観察園の開園について

白神自然観察園は2025年6月3日(火)より開園の予定です。

白神自然観察園の利用申請について

これまで白神自然観察園の利用申請は申請書PDFで実施していました。

利便性の向上のため、本日より申請フォームによる利用申請となりました。

ご理解のほどよろしくお願いします。

センターの専任教員が最近出版した論文三編

半年ほどブログの更新が滞っていました。

雪解けの時期なので、冬眠から覚めて更新を再開していきます。

 

今回はセンターの専任教員(相馬助教)が直近の数ヶ月で公表した論文の紹介です!

書誌情報と解説を以下に示しました!

三編ともオープンアクセスなので、リンク先から誰でも閲覧できます!

 

Souma, J., Le, C.V.C. & Pham, T.-H. (2024) First formal record of the feeding habits of Saileriolidae (Hemiptera, Heteroptera, Pentatomomorpha, Pentatomoidea), with redescription of Bannacoris hyalinus (Schaefer & Ashlock, 1970), comb. nov. endemic to Vietnam. Zookeys, 1221, 363–375. https://doi.org/10.3897/zookeys.1221.135026

Saileriolidae(カメムシ目)は東南アジアに3属4種のみが知られますが、科レベルで生態的知見が不足し3種で原記載以降の記録がありません。本研究では、64年前にベトナムで得られた1標本のみが知られる稀種Saileriola hyalina Schaefer & Ashlock, 1970を再記載し、その所属を形態的特徴からBannacoris Hsiao, 1964に移動させ新結合Bannacoris hyalinus (Schaefer & Ashlock, 1970)を提唱しました。さらに、本種がハマビワ属の一種(クスノキ科)に寄生し、成虫と幼虫が葉裏から吸汁することを確認しました。先行研究の知見と合わせて本科の生態的特性を考察し、葉食性カメムシのグンバイムシ科との類似性や姉妹群のクヌギカメムシ科との差異に言及しました。葉食性カメムシは研究材料として興味深いですが、普通種でも生活史が十分に記載されていない分類群が多数派です。今回の発見を皮切りに知名度が低い科でも基礎生態の解明が進むことを期待しています。Saileriolidaeには和名がありませんが、外部形態と生活史からグンバイカメムシ科と個人的に呼んでいます。この論文で再記載したB. hyalinusに和名を提案するならスカシグンバイカメムシが丁度良さそうです。

Bannacoris hyalinus (Schaefer & Ashlock, 1970)

 

Souma, J. (2025) A new species and two new records of the moss-feeding lace bug genus Acalypta (Hemiptera, Heteroptera, Tingidae) from Hokkaido, northern Japan, with an illustrated key to the Japanese species of the genus. Zookeys, 1229, 107–132. https://doi.org/10.3897/zookeys.1229.142344

日本産マルグンバイ属Acalypta Westwood, 1840(カメムシ目:グンバイムシ科)には本土四島周辺島嶼からマエハラマルグンバイA. cooleyi Drake, 1917、ムロマルグンバイA. gracilis (Fieber, 1844)、ヒラシママルグンバイA. hirashimai Takeya, 1962、ユキグニマルグンバイA. marginata (Wolff, 1804)、ミヤモトマルグンバイA. miyamotoi Takeya, 1962、ナガサキマルグンバイA. pallidicoronata Souma, 2019、マルグンバイA. sauteri Drake, 1942、ツルギマルグンバイA. tsurugisana Tomokuni, 1972の8種が知られていました。本研究では、調査が不足していた北日本に分布する種を再検討しました。北海道で過去に未同定種として記録された種は本属の既知種と形態的に異なったので、新種クシロマルグンバイA. alutacea Souma, 2025として記載されました。さらに、北海道利尻島で発見された未同定種は旧北区の広域に分布する日本新記録種ヤチマルグンバイA. carinata (Panzer, 1806)として報告されました。既知種のマルグンバイ北海道粟島から初めて記録されました。本研究により、日本産本属は10種となり、北海道に6種が分布することが明らかとなりました。本属の一部は他の昆虫が得られないような環境に自生する蘚類に低密度で生息しています。なので、野外調査は困難を極めました。一日かけても何一つ成果がない日ばかりでしたし、運良く当たりを引いても数個体が限度でした。怒りの力で外に出るモチベーションを落とすことを防ぎ、どうにか研究を完遂することができました。生きたクシロマルグンバイを野外で初めて目にした時の感動は今でも忘れられません。フィールドワークの辛さも忘れられませんが…。

クシロマルグンバイAcalypta alutacea Souma, 2025

 

Aiba, H., Souma, J. & Inose, H. (2025) A new genus and species of Microphysidae (Hemiptera: Heteroptera) with long labium in Late Cretaceous Iwaki amber from Futaba Group of Iwaki City, Fukushima Prefecture, Japan. Paleontological Research, 29, 44–53. https://doi.org/10.2517/prpsj.240017

白亜紀の地層から発見される琥珀は昆虫の進化史を議論するために重要な分類群が含まれています。しかし、東アジアでは琥珀に含まれる化石昆虫がミャンマー琥珀をのぞき十分に研究されていません。いわき琥珀は福島県いわき市に位置する白亜紀後期の地層から産出されますが、化石昆虫の先行研究は1例のみでした。本研究では、この琥珀から既知の分類群と外観が顕著に異なるカメムシ目の化石を発見し、新属新種クチナガフタガタカメムシIwakia longilabiata Aiba, Souma & Inose, 2025として記載しました。本種は体長を超える長さの口吻をもつトコジラミ下目としては特異な化石分類群ですが、科の定義への一致から暫定的にフタガタカメムシ科に含められました。日本のカメムシ化石ではムカシアシアカカメムシの発見にも驚きましたが、今回の発見は間違いなく最大の衝撃でした。いつか国内産の琥珀でグンバイムシ科の研究ができることを夢見ています。

新属新種のカメムシ化石発見、福島・いわきの白亜紀後期地層…世界最古か

新種の昆虫化石、いわきで発見 福島県立博物館の主任学芸員ら 進化解明に期待

研究成果がネットニュースでも取り上げられました!

 

今年度も昨年度に引き続き研究成果を積極的に論文として公表していく所存です!

そろそろ青森在住を活かしたあのカメムシの原稿が受理されると嬉しいのですが…。

白神自然観察園の冬季閉園について

白神自然観察園は2024年11月22日(金)より冬季閉園の予定です。

2025年の開園予定日は決定次第お知らせします。

ページ上部へ戻る