弘前大学 農学生命科学部附属 白神自然環境研究センター 白神山地で学び世界を見つめる

【参加者募集】深浦町 ”アオーネ白神十二湖” にて生物相調査BioBlitzを行います。

BioBlitz は国内では馴染みの少ないものと思いますが、欧米を中心に博物館などが主催で行われている市民参加型の生物調査イベントです。
動植物の専門家と子供を含む市民が一緒に、決められた地域の動植物を24 時間かけて調査します。調査結果は報告書にまとめられ、出版されます。このイベントの狙いは、
 ・地域の自然と奥深い生物の種多様性を知る。
 ・動植物の研究者と接し、専門的な知識や技法を知る。
 ・市民が記録の残る調査活動に参加する。
 ・単純に、自然に触れ、生き物を知る事を楽しむ。

一般的な観察会や散策とはちょっと違う自然との新しい接し方を楽しみましょう。

会場:青森県深浦町 アオーネ白神十二湖
 当日は現地集合。自家用車でお越しください。

日時:2025 年9月27日午前10:00 〜 
 9月28日午前11:30(24 時間調査)

募集:小学生以上  50名
  (調査経験不問。小中学生は保護者と一緒に参加してください)

応募締め切り7月31日 参加者発表8月5日
  (応募者が多数と見込まれるため,抽選を行います)

専門家スタッフ
  弘前大学教員、外部研究者のほか、津軽植物の会、津軽昆虫同好会、白神キノコの会、弘前大学フィールドサイエンス研究会、日本野鳥の会弘前支部、コウモリの保護を考える会などに参加を打診中。

参加を希望される方は、下記URL から「一般参加申し込みフォーム」に入り、必要事項にお答えください。

https://forms.gle/fhVyxBYuhKbebVyU7

詳細はこちらのPDFをご覧ください。

Bioblitz2025案内配布用

白神自然観察園の開園について

白神自然観察園は2025年6月3日(火)より開園の予定です。

白神自然観察園の利用申請について

これまで白神自然観察園の利用申請は申請書PDFで実施していました。

利便性の向上のため、本日より申請フォームによる利用申請となりました。

ご理解のほどよろしくお願いします。

センターの専任教員が最近出版した論文三編

半年ほどブログの更新が滞っていました。

雪解けの時期なので、冬眠から覚めて更新を再開していきます。

 

今回はセンターの専任教員(相馬助教)が直近の数ヶ月で公表した論文の紹介です!

書誌情報と解説を以下に示しました!

三編ともオープンアクセスなので、リンク先から誰でも閲覧できます!

 

Souma, J., Le, C.V.C. & Pham, T.-H. (2024) First formal record of the feeding habits of Saileriolidae (Hemiptera, Heteroptera, Pentatomomorpha, Pentatomoidea), with redescription of Bannacoris hyalinus (Schaefer & Ashlock, 1970), comb. nov. endemic to Vietnam. Zookeys, 1221, 363–375. https://doi.org/10.3897/zookeys.1221.135026

Saileriolidae(カメムシ目)は東南アジアに3属4種のみが知られますが、科レベルで生態的知見が不足し3種で原記載以降の記録がありません。本研究では、64年前にベトナムで得られた1標本のみが知られる稀種Saileriola hyalina Schaefer & Ashlock, 1970を再記載し、その所属を形態的特徴からBannacoris Hsiao, 1964に移動させ新結合Bannacoris hyalinus (Schaefer & Ashlock, 1970)を提唱しました。さらに、本種がハマビワ属の一種(クスノキ科)に寄生し、成虫と幼虫が葉裏から吸汁することを確認しました。先行研究の知見と合わせて本科の生態的特性を考察し、葉食性カメムシのグンバイムシ科との類似性や姉妹群のクヌギカメムシ科との差異に言及しました。葉食性カメムシは研究材料として興味深いですが、普通種でも生活史が十分に記載されていない分類群が多数派です。今回の発見を皮切りに知名度が低い科でも基礎生態の解明が進むことを期待しています。Saileriolidaeには和名がありませんが、外部形態と生活史からグンバイカメムシ科と個人的に呼んでいます。この論文で再記載したB. hyalinusに和名を提案するならスカシグンバイカメムシが丁度良さそうです。

Bannacoris hyalinus (Schaefer & Ashlock, 1970)

 

Souma, J. (2025) A new species and two new records of the moss-feeding lace bug genus Acalypta (Hemiptera, Heteroptera, Tingidae) from Hokkaido, northern Japan, with an illustrated key to the Japanese species of the genus. Zookeys, 1229, 107–132. https://doi.org/10.3897/zookeys.1229.142344

日本産マルグンバイ属Acalypta Westwood, 1840(カメムシ目:グンバイムシ科)には本土四島周辺島嶼からマエハラマルグンバイA. cooleyi Drake, 1917、ムロマルグンバイA. gracilis (Fieber, 1844)、ヒラシママルグンバイA. hirashimai Takeya, 1962、ユキグニマルグンバイA. marginata (Wolff, 1804)、ミヤモトマルグンバイA. miyamotoi Takeya, 1962、ナガサキマルグンバイA. pallidicoronata Souma, 2019、マルグンバイA. sauteri Drake, 1942、ツルギマルグンバイA. tsurugisana Tomokuni, 1972の8種が知られていました。本研究では、調査が不足していた北日本に分布する種を再検討しました。北海道で過去に未同定種として記録された種は本属の既知種と形態的に異なったので、新種クシロマルグンバイA. alutacea Souma, 2025として記載されました。さらに、北海道利尻島で発見された未同定種は旧北区の広域に分布する日本新記録種ヤチマルグンバイA. carinata (Panzer, 1806)として報告されました。既知種のマルグンバイ北海道粟島から初めて記録されました。本研究により、日本産本属は10種となり、北海道に6種が分布することが明らかとなりました。本属の一部は他の昆虫が得られないような環境に自生する蘚類に低密度で生息しています。なので、野外調査は困難を極めました。一日かけても何一つ成果がない日ばかりでしたし、運良く当たりを引いても数個体が限度でした。怒りの力で外に出るモチベーションを落とすことを防ぎ、どうにか研究を完遂することができました。生きたクシロマルグンバイを野外で初めて目にした時の感動は今でも忘れられません。フィールドワークの辛さも忘れられませんが…。

クシロマルグンバイAcalypta alutacea Souma, 2025

 

Aiba, H., Souma, J. & Inose, H. (2025) A new genus and species of Microphysidae (Hemiptera: Heteroptera) with long labium in Late Cretaceous Iwaki amber from Futaba Group of Iwaki City, Fukushima Prefecture, Japan. Paleontological Research, 29, 44–53. https://doi.org/10.2517/prpsj.240017

白亜紀の地層から発見される琥珀は昆虫の進化史を議論するために重要な分類群が含まれています。しかし、東アジアでは琥珀に含まれる化石昆虫がミャンマー琥珀をのぞき十分に研究されていません。いわき琥珀は福島県いわき市に位置する白亜紀後期の地層から産出されますが、化石昆虫の先行研究は1例のみでした。本研究では、この琥珀から既知の分類群と外観が顕著に異なるカメムシ目の化石を発見し、新属新種クチナガフタガタカメムシIwakia longilabiata Aiba, Souma & Inose, 2025として記載しました。本種は体長を超える長さの口吻をもつトコジラミ下目としては特異な化石分類群ですが、科の定義への一致から暫定的にフタガタカメムシ科に含められました。日本のカメムシ化石ではムカシアシアカカメムシの発見にも驚きましたが、今回の発見は間違いなく最大の衝撃でした。いつか国内産の琥珀でグンバイムシ科の研究ができることを夢見ています。

新属新種のカメムシ化石発見、福島・いわきの白亜紀後期地層…世界最古か

新種の昆虫化石、いわきで発見 福島県立博物館の主任学芸員ら 進化解明に期待

研究成果がネットニュースでも取り上げられました!

 

今年度も昨年度に引き続き研究成果を積極的に論文として公表していく所存です!

そろそろ青森在住を活かしたあのカメムシの原稿が受理されると嬉しいのですが…。

白神自然観察園の冬季閉園について

白神自然観察園は2024年11月22日(金)より冬季閉園の予定です。

2025年の開園予定日は決定次第お知らせします。

講演会「小笠原のカメムシ」開催報告

先日の投稿で告知した講演会「小笠原のカメムシ」を小笠原世界遺産センターで開催しました。

小笠原村の掲示板や防災行政無線でも詳細な日時を告知していただきました。

当日は現地で採集した固有カメムシ7種の生体を会場に用意しました。

会場とオンラインを合わせて約160人にご視聴いただきました。

ニッチな話題ながら想像以上に盛り上がり安堵しています。

世界自然遺産で講演会を開催します!

今回は世界自然遺産でも白神山地ではなく小笠原諸島を話題にします。

9月25日(水)に環境省の小笠原世界遺産センター主催で講演会「小笠原のカメムシ」を開催します。

https://ogasawara-info.jp/

開催時刻は19:00~20:30で、Zoomで配信を視聴することもできます。

小笠原講演会ポスター

興味のある方はお聴きいただければ幸いです。

センターの専任教員が論文を出版しました!

センターの専任教員(相馬助教)が執筆した筆頭論文がZootaxaより出版されました!

書誌情報と解説を以下に示しましたので、興味のある方はご覧いただければ幸いです!

 

Souma, J., Takahashi, Y., Aiba, H. & Aida, M. (2024) Discovery of the fossil true bug species Urochela (Urochela) cf. melaina Zhang, 1989 (Hemiptera: Heteroptera: Urostylididae) from Japan, suggesting a wide distribution of the U. (U.) quadrinotata (Reuter, 1881) species group in East Asia in the past. Zootaxa, 5507 (4), 589–596. https://doi.org/10.11646/zootaxa.5507.4.6

クヌギカメムシ科(カメムシ目)はアジアに8属172種が知られ、日本から2属6種が記録されています。最近の分子系統学的研究では種多様性が高いナシカメムシ属Urochela Dallas, 1850、Urolabida Westwood, 1837、クヌギカメムシ属Urostylis Westwood, 1837が多系統であることに加え、交尾器形態により提案された種群の一部が単系統であることが示されました。したがって、各属の再定義と分岐年代推定を含む本科の再検討には単系統群の化石記録が重要な状況です。本研究では、佐渡島に位置する前期中新世の真更川層から発見された本科の化石を単系統のヨツモンカメムシが含まれる種群U. (Urochela) quadrinotata (Reuter, 1881) species groupに所属するサドヨツモンカメムシU. (U.) cf. melaina Zhang, 1989と同定して報告しました。現生種のヨツモンカメムシU. (U.) quadrinotataが現在の日本列島にも分布することから、本種群が長期間にわたり国内に分布していることが示唆されました。日本のカメムシ化石の研究はまだ発展途上ですが、今後も重要な発見が続くと信じています。

 

余談ですが、相馬が公表したすべての論文は解説が個人HPに掲載されています!

https://sites.google.com/view/junsouma/commentary

今後も研究成果の発信を定期的に行う予定です!

オープンキャンパスに参加しました

本日は弘前大学のオープンキャンパスが開催されました。

センターが参加するのは今回が初めてです!

活動を紹介する簡単な紹介コーナーを設置しました。

模擬講義も実施しました。

高校生からの質問も活発に飛び交い大盛況でした!

青森県を代表するカメムシ三選

ブログでは不定期で青森県の自然について紹介していく予定です。

最初となる今回は県内で一度はお目に掛かりたいカメムシを3種紹介します。

県産カメムシは秋になると家屋に侵入し嫌われる種が目立ちますが、良好な自然環境を反映する貴重な種もいます。

 

1. ハッコウダグンバイStephanitis (Stephanitis) hakkodasana Takeya, 1963(グンバイムシ科)

八甲田山で得られた標本をもとに新種として記載されたカメムシです。

ハクサンシャクナゲの葉裏に寄生します。

今のところ同山系にのみ知られています。

しかし、実際に固有種であるかは再検証の余地が残されています。

とはいえ、現状では青森でしか出会えないカメムシです。

 

2. ハイイロナガマキバサシガメNabis (Limnonabis) demissus (Kerzhner, 1968)(マキバサシガメ科)

国内では北海道と青森県でのみ確認されているカメムシです。

海岸に面した湿原に生息し、単子葉類の群落に見られます。

近縁の同属種とは草丈で棲み分けています。

県内では北海道ほど産地が多くありませんが、生息地での個体数は少なくありません。

本州では青森でしか出会えないカメムシです。

 

3. ヒウラカメムシParaholcostethus breviceps (Horváth, 1897)(カメムシ科)

日本では青森県で最初に発見されたカメムシです。

初報告の後、宮城県、福島県、茨城県からも記録されました。

低地の湿原に生息し、ヌマハリイなどに寄生します。

本県では内陸部をのぞいて決して珍しい種ではありません。

ですが、他県では産地が局限されています。

県内だからこそ簡単に出会えるカメムシです。

 

青森県の自然を代表するカメムシは他にも多数いますので、どこかで記事にするかもしれません。

その前に、他の生物について紹介することになりそうですが…。

今後の更新をお待ちください。

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